データサイエンスが薬剤師の仕事を変える?

データサイエンス

2024.06.28

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近年、医療分野でデータサイエンスの活用が加速してきています。特に、薬剤師の業務では、データ活用による大きな変革が起こりつつあります。データサイエンスは、情報を抽出し、それを利用して意思決定を行うための手法です。一方、薬剤師は医療の最前線で、患者の治療に必要な薬物を提供し、その効果と安全性を確保する役割を果たしています。これら二つの分野は一見無関係に見えますが、実際にはデータサイエンスは薬剤師の仕事を大きく変える可能性を秘めています。この記事では、その可能性について詳しく見ていきます。

薬剤師の仕事と課題

薬剤師は医療の現場で重要な役割を担っている専門職です。主な業務には以下のようなものがあります。

 

調剤

 

医師の処方に基づき、正確な量の医薬品を調剤します。投与方法の適切性を確認することも重要な業務の一つです。調剤には高い正確性が求められますが、近年の医療の高度化に伴い、さらなる効率化が必要とされています。例えば、同一患者への連続処方の際に、過去の処方情報を参照して投薬量の確認を行ったり、医薬品の相互作用をチェックしたりするなど、データを活用した業務改善が求められています。

 

服薬指導

 

患者に対し、投薬する医薬品の効能・副作用・用法・用量などの情報提供を行い、適切な服薬を促します。患者の服薬アドヒアランス(服薬遵守率)の向上に重要な役割を果たしています。近年では、患者の服薬歴やバイタルデータ、検査結果などをデータベース化し、個々の患者に最適な服薬指導につなげる取り組みも行われています。

 

薬歴管理

 

患者ごとの服薬情報を一元管理し、重複投薬や相互作用のリスクを低減します。医療スタッフ間での情報共有にも活用されています。医療の高度化に伴い、患者の服薬情報が増大・複雑化している中で、データベースを活用した一元管理が重要となっています。

 

薬の販売

 

医療施設や調剤薬局で、医薬品の管理と販売を行います。在庫管理や薬品ロスの防止などが課題となっています。医療機関や薬局における医薬品の需要予測や適正在庫水準の設定などに、データ分析を活用することで、在庫の最適化と無駄の削減が期待されています。

 

このように、薬剤師には多岐にわたる業務が求められています。しかし、近年の医療の高度化や多様化に伴い、これらの業務にも様々な課題が生じてきました。高齢化による多剤服用患者の増加、医療情報の爆発的増加、医療費抑制への圧力など、薬剤師にはさらなる業務の効率化と質の向上が求められるようになってきたのです。

データサイエンスを活用した新しい薬剤師業務

こうした課題に対し、データサイエンスの活用が新たな解決策として注目されています。具体的な活用事例は以下の通りです。

 

調剤

 

調剤業務では、過去の処方情報やレセプトデータなどを活用し、最適な調剤プロセスの提案や、調剤ミスの予防ができます。例えば、過去の同様の処方箋を参照して、適切な投薬量や禁忌薬剤のチェックを行う支援システムなどが考えられます。こうしたシステムを活用することで、調剤の正確性と効率性を高めることができます。

 

服薬指導

 

患者の服薬状況、検査データ、副作用情報などのビッグデータ分析により、個々の患者に最適な服薬指導ができます。患者の服薬アドヒアランス向上や重複投薬の防止など、より効果的な服薬管理が実現できます。例えば、患者の過去の服薬履歴や検査結果を踏まえて、副作用のリスクが高い薬剤の使用を回避するなど、データに基づいた指導が可能になります。

 

在庫管理の最適化

 

医療機関や薬局の医薬品需要予測や在庫最適化をデータ分析で行うことで、在庫の適正化と薬品ロスの削減が可能になります。過去の販売実績や季節変動、患者動向などのデータを分析し、必要な医薬品を適切な量だけ在庫として持つことができるようになります。これにより、在庫過多による費用の増大や、品切れによるサービス低下を防ぐことができます。

 

このように、データサイエンスの活用によって、従来の薬剤師業務を大幅に効率化し、質の向上を図ることができるのです。

具体的な事例

上記のようなデータ活用の取り組みは、すでに一部の医療機関や薬局で実践されています。2つの事例をご紹介します。

 

服薬指導支援システム

 

さくら薬局は、大量の調剤データと患者データを利用して、服薬指導を補助するシステムを導入しています。服薬指導は、薬剤師の経験による差異が問題となりますが、さくら薬局では、全国の店舗から薬に関する知識や服薬指導に関する洞察を集めてデータベース化し、薬剤師が服薬指導を行う際に、AIによる提案を参照できるシステムを構築しています。さらに、経験豊富な薬剤師にとっては、情報過多は逆にノイズとなるため、薬剤師のスキルに応じて提案する情報の量を調整できるような工夫も施されています。これにより、各薬剤師のニーズに合わせた情報提供が可能となっています。

出典:薬剤師支援AIソリューションで、業務の品質向上と効率化を支援|IBM

 

一包化監査支援システム

 

富士フィルムは、調剤業務の効率化を目的に「一包化監査支援システム」を開発しました。このシステムは、薬の種類と数量を判定し、処方箋と自動照合で、投薬量の誤りや禁忌薬剤の混入などをチェックすることができます。このシステムを導入することで、薬剤師の一包化監査業務の時間を短縮するだけでなく、正確性の向上にも繋がります。

出典:一包化監査システムで、薬を一瞬で見分ける|富士フィルム

 

このように、データサイエンスの活用は薬剤師業務の課題解決に役立っています。ただし、その活用には一定の課題も存在します。

データサイエンスを活用する上での課題

データサイエンスの活用には、以下のような課題があります。

 

データ品質の確保

 

正確な分析結果を得るには、入力データの正確性と網羅性が欠かせません。しかし、医療機関間のシステム連携が不十分で、データの標準化や整備が課題となっています。例えば、同一の検査項目であっても、機関によって測定方法や単位が異なるなど、データ形式の統一化が進んでいません。そのため、データの収集・集計には工夫が必要となっています。

 

プライバシー保護への配慮 

 

医療情報は極めてプライバシーが重要な分野です。データ活用の際は、患者情報の適切な管理と保護が求められます。匿名化や暗号化など、プライバシー保護の仕組みづくりが重要となっています。一方で、データの有効活用と保護のバランスを保つのも課題の一つです。

 

人材育成の必要性

 

データサイエンスの活用には、IT/データ分析スキルを備えた人材が不可欠ですが、医療現場ではこうした人材が不足しているのが実情です。薬剤師にデータ活用スキルを身につけてもらうための教育プログラムの整備や、データサイエンティストとの協働体制の構築が急がれています。

 

これらの課題に適切に対応していくことが、医療現場でのデータサイエンス活用を推進する上で重要になってきます。

データサイエンスの活用による薬剤師の未来

このように、データサイエンスの活用は薬剤師の業務に大きな変革をもたらそうとしています。

単なる業務の効率化にとどまらず、個々の患者に最適な薬物療法の提案や、新薬開発への貢献など、薬剤師の役割はより高度化・多様化していくと考えられます。例えば、ビッグデータ分析による副作用予測や、個別最適化された投薬設計など、これまでにない新たな業務が生み出される可能性があります。

また、ITスキルを持つ薬剤師の需要が高まり、専門性の向上によって、薬剤師の社会的な地位向上にもつながるかもしれません。医療の高度化に対応できる人材として、薬剤師の価値がより一層高まることが期待されます。

 

一方で前述の課題にも適切に対応していく必要があります。特に、医療情報の取り扱いにおける倫理面の配慮は重要です。患者中心の医療を実現するためには、プライバシー保護と有効活用のバランスを保つ仕組みづくりが鍵となります。

まとめ

データサイエンスの活用は、薬剤師業務の大きな変革を促しています。調剤、服薬指導、在庫管理などの業務プロセスを効率化し、質の向上を実現することができます。

一方で、データの品質確保やプライバシー保護、人材育成など、解決すべき課題もあります。しかし、これらの課題に適切に取り組むことで、データサイエンスの活用は、医療の質の向上と患者サービスの向上につながることが期待されます。

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