スポーツアナリティクスとは・スポーツ×データサイエンス(データ分析)の可能性

データサイエンス

2023.11.10

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スポーツアナリストという職業をご存じでしょうか。スポーツアナリストとは、スポーツに関するデータを分析して選手やチームの強化に貢献する職業を指します。スポーツ漫画を読む方は、スポーツ漫画に登場する「データ系キャラ」をイメージする方もいらっしゃるかもしれません。しかし、スポーツアナリストが具体的にどのようなことをするのか想像がつかないという方も多いでしょう。
この記事では、スポーツにデータ分析やデータサイエンスを活用することで実現できることについて解説します。

1.スポーツアナリティクスとは

スポーツアナリティクスとは、スポーツに関するデータを収集・分析して、選手やチームのために活用することをいいます。

スポーツの世界は経験や勘が重要であり、データ活用とは縁遠い分野であるというイメージをお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。しかし、近年ではデータ収集技術が向上したことや、データ活用により成果をあげているプロスポーツチームが増えてきたということもあり、スポーツの世界でもデータ活用が重要視されるようになっています。


 

2.海外におけるスポーツアナリティクスの活用事情

海外ではかなり昔からスポーツにおけるデータ活用が行われていました。例えば、野球では「セイバーメトリクス」という手法が1970年頃から使用されていました。これは、打率や走塁などに関するデータを統計的に分析し、選手の真のパフォーマンスや貢献度を評価する手法です。

データを用いてメジャーリーグのチーム再建に挑むというストーリーの「マネーボール」という映画が2011年に公開されたことからも、アメリカでは野球におけるデータ活用が一般的に行われていたことが分かります。

サッカーでも積極的なデータ活用が行われています。2014年のワールドカップではドイツが優勝しましたが、その裏には、データ分析の力がありました。ドイツ代表チームはSAPという企業と手を組み、フィールド上の選手の多様なデータを取得し、選手のプレーを客観的な事実やデータに基づいて分析していたそうです。解析結果に基づいたトレーニングを繰り返して、ボール保持時間の向上などを実現したことが、ドイツ代表を優勝へと導いたといえるでしょう。

3.スポーツ業界におけるデータ分析活用の場面

スポーツ業界において、データ分析は具体的にどのような場面で活用できるのでしょうか。具体的な場面をいくつか紹介します。

 

(1)試合の戦略立案

 

データ分析により、経験や勘によらない合理的な連略を立案することが可能になります。プロサッカークラブである川崎フロンターレでは、過去の試合データを分析し、戦略の立案に適用する試みがなされました。以下のようなデータを活用し、試合を分析したようです。

・試合の動画

・選手の位置・速度・加速度(選手が装着したGPSセンサから取得)

 

これにより、プレーの成否要因の解析を実施しました。例えば、「MFの初期ポジションが右に寄りすぎていなかったため、このプレーは上手く行った」などという知見を抽出しました。このように、プレーを成功させる要因を導き出すことにより、選手のフォーメーションなどの戦略を組みやすくなります。

また、関係者が何となく持っていた暗黙知の裏付けが得られたという副効果もあったようです。データを活用すると、経験や勘ではなく、根拠を持って戦略を立案することができるようになるのです。

 

(2)メンバーの選抜

 

試合中に取得したデータを用いると、選手の特徴を掴み、メンバー選抜の参考にできます。例えば、以下のようなデータを取得したとしましょう。

 ・1試合での走行距離

 ・ボール保持率、時間

 ・プレー成功率

 ・得点への貢献度

 

このようなデータを用いると、「選手Aはスタミナがある」、「選手Bは得点数が少ないものの、状況判断力やアシスト力に優れている」といった特徴を把握することができます。また、選手間で比較することによりチーム内での立ち位置も明確になります。このような解析結果を参考にすると、相手のチームに合わせた的確なメンバー選抜が可能になります。

 

この他にも、ウェアラブルデバイスを通した取得したデータ(心拍数・睡眠時間など)から選手のコンディションを把握し、メンバー選定の参考にするといったことも考えられます。調子が悪い選手は次回試合のメンバーから外すといった判断も可能になるでしょう。

参考:サッカーにおけるデータ分析とチーム強化

 

(3)選手のトレーニングメニュー・育成計画の立案

 

データにより選手の特徴を定量化できるということは、各選手の強み、弱みが分かるということです。これにより、選手の強みを伸ばす、あるいは弱点を克服するための的確なトレーニングメニューを考案できます。明確な根拠に基づいたメニューであるため、選手も納得して取り組めるでしょう。

データを活用して選手の特徴を把握できれば、チーム全体としての課題も把握しやすくなるでしょう。この課題を解決するために、チームとしてどのような育成計画を立案するべきかという方針を立てることも可能になります。

 

(4)長期的な予測分析

 

データを蓄積していくことにより、選手のパフォーマンスをある程度予測できる可能性があります。これにより、選手が将来的に活躍しそうなポジションを予測できるでしょう。

また、将来的なポテンシャルを評価できる可能性もあります。例えば、二軍の選手のパフォーマンスを予測し、将来的に伸びそうなポテンシャルがある選手を一軍に登用するなどということが考えられます。データを用いて将来を予測することにより、将来的にチームに貢献できる選手を見出し、育成を強化することもできるでしょう。

4.スポーツの世界でデータサイエンスを活用するメリット

ここからは、データ分析とデータサイエンスの違いについて説明した上で、スポーツの世界でデータサイエンスを活用するメリットを紹介します。

 

(1)データ分析とデータサイエンスの違い

 

まずは、前提知識としてデータ分析とデータサイエンスの違いについて解説します。いずれも「データから有用な知見を引き出し、活用する」という点では共通していますが、以下のような違いがあります。

・データ分析:データの規則性を見出し、すでに起こった現象を理解する

(アプローチ:データの可視化、統計解析手法よる解析など)

・データサイエンス:データ分析による得られた知見と、機械学習による予測モデルの構築などを組み合わせ、課題解決に貢献すること

 (アプローチ:機械学習による分類・予測モデル構築など)

両者の違いを踏まえた上で、スポーツの世界でデータサイエンスを活用するメリットを紹介します。

 

(2)試合の勝率を上げる可能性がある

 

データサイエンスを活用すると、試合の勝率を上げる可能性があります。データを活用して、合理的な戦略立案やメンバー育成を行うことは、勝率の向上につながるからです。

ある試合で負けてしまったとしても、試合ごとにデータを収集していれば、改善点を発見できます。データサイエンスを活用することにより、戦略・人材面でチームを強くして、継続的な改善を実現できるのです。

 

(3)選手のパフォーマンス向上を実現できる

 

データサイエンスの活用により選手の特徴をつかみ、効果的な育成計画を立案できるようになります。選手の足りないところを補強したり、強みを伸ばすためのトレーニングメニューを考案したりして、確実なパフォーマンス向上を実現できる可能性が高まります。

また、ウェアラブルデバイスを用いて選手の健康状態に関するデータを取得すると、怪我の危険性が高い選手を予測することもできるかもしれません。データサイエンスを用いると、選手の状態を把握するだけでなく、選手の故障を未然に防止できる可能性があります。

 

(4)選手のモチベーション向上につながる

 

データサイエンスを活用すると、得点数などの分かりやすい指標だけでなく、どのようにチームに貢献したかという観点で選手のプレーを多角的に評価できます。このような取り組みにより、選手は自分らしい方法でチームに貢献できているという実感を得ることができ、モチベーションが高まることでしょう。

5.スポーツ業界におけるデータサイエンス活用に向けた取り組み事例

日本代表が大活躍し、近年人気が急上昇しているラグビーにおいてもデータサイエンスの活用が進んでいます。慶應義塾大学はソフトバンク先端研究所と組み、ラグビーにおけるデータサイエンスの活用に取り組んでいます。各種センサーやカメラから得られたデータをAIにより分析し、選手やチームにフィードバックする「AIスタジアム」というコンセプトを考えているようです。これにより、競技のレベル向上や新たな観戦体験の創出につなげることを目的としています。

参考URL:ソフトバンクと慶應義塾大学が共同研究で挑むAIスタジアム構想

6.スポーツ業界でデータサイエンス活用に取り組む際の注意点

スポーツにおいてデータサイエンス活用に取り組む際は、以下の点に注意が必要です。

 

(1)長期的なプロジェクトとして取り組むこと

 

データサイエンス活用に取り組む際は、長期的なプロジェクトとして取り組むようにしましょう。

チームの状況にもよりますが、データの活用目的から定義し、その後は必要なデータの種類・収集方法から考える必要があるでしょう。その後、必要なデータを収集して分析し、試行錯誤を繰り返してチームの成果に結びつけるには長い時間がかかります。すぐに成果が出ないからといってプロジェクトを中断するのではなく、長期戦になる覚悟を持って腰を据えて取り組みましょう。

 

(2)チーム全体で取り組むこと

 

スポーツでデータサイエンスを活用するためには、チーム全体の理解が欠かせません。例えば、データ収集において、選手にウェアラブルデバイスを装着してもらうという場面が考えられます。しかし、選手によっては、個人情報を提供することに抵抗を感じる方もいらっしゃるかもしれません。また、データの解析結果よりも従来の暗黙知や経験値を優先してしまうコーチや選手が存在することも考えられます。

データサイエンスの活用を推進するためには、チームの全員と対話して必要性を理解してもらい、チーム一丸となって取り組むことが欠かせないのです。

7.新たな職業スポーツアナリストとは

スポーツアナリストは、スポーツの世界でデータサイエンスを活用するスペシャリストです。日本ではまだ職業としての認知度は低いですが、データドリブンにスポーツを行う海外では既に新たな職業として広く認知されています。

日本スポーツアナリスト協会(JSAA)は、スポーツアナリストを以下のように定義しています。

“選手及びチームを目標達成に導くために、情報戦略面で高いレベルでの専門性を持ってサポートする職業

引用元:スポーツアナリストとは(日本スポーツアナリスト協会公式サイト)

 

日本でもスポーツにおけるデータ分析やデータサイエンスの活用は急速に進んでいくと考えられるため、今後はスポーツアナリストの活躍の場が広まっていくと予想されます。

また、スポーツアナリストには多様なキャリアパスが考えられます。例えば、監督やコーチ、マネージャー、解説者などが挙げられます。スポーツに興味があり、何らかの形で貢献してみたいという方は、キャリアパスの一つとして検討してみてはいかがでしょうか。

 

まとめ

この記事では、スポーツにデータ分析やデータサイエンスを活用することで実現できることについて解説しました。

 

データ分析やデータサイエンスを活用すると、根拠に基づいた戦略立案や選手育成が可能となります。データサイエンスは、所属しているチームだけではなく、競技全体のレベル向上に貢献する可能性を秘めています。しかし、海外と比較すると、日本ではスポーツにおけるデータ活用はあまり進んでいないというのが現状です。それだけに、スポーツ×データサイエンスのスペシャリストであるスポーツアナリストは希少な人材であるといえるでしょう。

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